はじめに:応援のつもりがプレッシャーに?
受験期――それは、子どもにとっても親にとっても、大きなストレスがのしかかる時期です。
「志望校に受かってほしい」「なんとかいい結果を出してあげたい」
そんな願いから、親は知らず知らずのうちに言葉や行動で子どもを後押ししようとします。
でもその“応援”、本当に子どものためになっているでしょうか?
一見ポジティブな言葉が、実は子どもを追い詰めていた。
励ましのつもりが、かえってやる気を削いでいた――
そんなケースは、受験期には意外と多く見られます。
私も受験生時代に親のプレッシャーにさらされ、苦しい時期がありました・・・。
そこでこの記事では現役東大生ライターの「けんけん」が、「親の焦りが子どもに与える影響」と「受験期における理想の心の距離感」について、心理学的な視点と実際の家庭の事例を交えながら解説していきます!
なぜ親は焦るのか?「良かれと思って」が裏目に出るワケ
受験期が近づくにつれ、親はどうしても焦りを感じるようになります。
その理由は明確で、「子どもの未来がかかっている」と強く実感するからです。
たとえば、模試の結果が思わしくないとき、「このままじゃ第一志望に届かないかも」と不安になるのは当然です。子どもがダラダラしていたり、スマホを長時間いじっていたりすると、「この子は本気で受験する気があるの?」と心配になるのも無理はありません。
このような感情は、すべて「我が子のためを思って」のこと。親としての責任感と愛情ゆえの反応です。
しかし、問題はその“焦り”が、言葉や態度に無意識のうちににじみ出てしまう点にあります。
- 「いい加減、本気になりなさいよ」
- 「このままじゃ絶対に落ちるよ」
- 「〇〇くんは偏差値がもう○○まで上がってるらしいよ」
このような発言は、親にとっては“危機感を共有させたい”という意図でも、子どもにとっては「否定」や「比較」「押しつけ」として響きます。
思春期の子どもは特に、「自分で決めたい」「口出しされたくない」という欲求が強いため、親のアドバイスがストレートに反発を招くことも少なくありません・・・。
さらに、親の焦りは、親自身の「不安」の裏返しであることが多いのもポイントです。
- 自分の子どもだけ取り残されたらどうしよう
- 親としてサポートを間違えて失敗させたらどうしよう
- 周囲の家庭と比べて、うちだけ緩すぎるのでは?
こうした不安が、過干渉や過剰な管理、または必要以上の干渉につながってしまうのです。
もちろん、「良かれと思って」は本心でしょう。ですが、子どもから見れば「信じてもらえていない」「プレッシャーばかりかけられている」と感じるケースも多くあります。
たとえば、親が志望校について「そこはレベルが高すぎる」と現実的な提案をしたつもりでも、子どもは「夢を否定された」「応援されていない」と受け取ることがあります。
親の“焦り”は、子どもにとって“否定”や“疑い”に聞こえることがある。
だからこそ、親はまず「なぜ自分は焦っているのか?」を冷静に見つめ直すことが、心の距離感を適切に保つための第一歩となります。
そして、その焦りの奥にある「我が子を思う気持ち」を、より建設的な形で伝える工夫が必要なのです!

子どもは親の“空気”を敏感に感じ取っている
受験期の子どもは、ただでさえ繊細になっています。模試の結果、クラスメイトとの比較、将来への不安、勉強が思うように進まない焦り……そうしたさまざまなストレスを抱えながら日々過ごしています。
その状態で、家庭の空気がさらにピリピリしていたらどうなるでしょうか。
実は、子どもは親が思っている以上に「空気を読む力」に長けています。
たとえ言葉を発しなくても、親の表情やしぐさ、ため息、声のトーンなどから、「機嫌が悪い」「イライラしている」「がっかりされたかも」と敏感に察知しているのです。
たとえばこんな場面、思い当たることはないでしょうか。
- 成績が下がったテストを渡した瞬間、親の表情が曇った
- リビングでスマホを見ていたら、無言で親が視線を向けてきた
- なんとなく親が不機嫌な気がして、話しかけにくくなった
こうした“無言の圧力”は、実は言葉以上に子どもを萎縮させてしまいます。
もちろん、親自身も感情を抑えるのは簡単ではありません。心配や不安があるときに、それを顔に出すなというのは難しい話です。
でも、家庭は子どもにとって唯一安心できる場所であるべきなのです。
学校や塾で緊張し、成績に追われ、友人関係にも気をつかっている受験生にとって、家くらいは「自分のままでいられる場所」であってほしい。ところが、その家がプレッシャーの発信源になってしまうと、子どもは心の居場所を失ってしまいます。
その結果、こうした負のサイクルに陥ることがあります。
- 家でもストレス → 心が休まらない
- 心が疲弊 → 勉強の集中力が落ちる
- 成績が伸びない → 親の焦りが強まる
- 焦りがまた子どもに伝わる → ストレス増大…
まさに、親子でプレッシャーを“無限ループ”のように回してしまっている状態です。
この悪循環を断ち切るためには、まず親が「空気づくり」の役割を担う意識が大切です。
たとえば、家では意識的にリラックスした表情を心がける、ため息をぐっとこらえる、話しかけるときはトゲのない声で伝える――
そんな些細なことでも、子どもにとっては「安心してここにいていいんだ」と感じられるきっかけになります。
特に、何か失敗したときやスランプの時期こそ、親のまなざしの“柔らかさ”が子どもに届くときです。
落ち込んで帰ってきたときに「大丈夫、大丈夫。あなたならなんとかするでしょ」と、軽やかに背中を押してもらえたら。
子どもはまた前を向いて、机に向かうエネルギーを取り戻すことができます。
心の距離を保つためにできること
では、どうすれば親は子どもと適切な“心の距離”を保てるのでしょうか。ポイントは次の3つです。
子どもの「感情」に目を向ける
子どもが勉強していないとき、叱る前に「なぜ今やっていないのか?」を考えてみてください。単にサボっているのではなく、「疲れている」「やる気が出ない」「不安で手がつかない」といった感情が背景にあることが多いのです。
「最近、ちょっと疲れてる?」
「なかなか集中できないときってあるよね」
このように共感をベースにした声かけは、子どもの安心感につながります。
一方的な“指示”より、“対話”を意識する
受験期は、親も子どももストレスを抱えています。だからこそ、「今、何に悩んでる?」「この志望校、本当に行きたい?」といった対話の時間がとても大切です。
勉強の計画を一緒に立てるときも、「このスケジュールで無理はない?」「自分でどうしたいと思ってる?」と問いかけながら、子ども自身が“自分の受験”として納得できるような形を目指すと良いでしょう。
成果より「努力の過程」に目を向ける
模試の偏差値や順位に一喜一憂しがちですが、そこばかりに注目すると子どもは「結果でしか評価されない」と感じ、過剰なプレッシャーを抱えてしまいます。
それよりも、「自分から机に向かってたね」「前よりも集中できてたね」といった、努力のプロセスを認める声かけを心がけてみてください。
そうすることで、子どもは「見てくれてる」「応援されてる」と感じ、精神的な安心感を得ることができます。



「親は見守る役割」でいい
受験は、あくまで「子ども自身が自分の人生のために向き合うべきもの」です。親の役割は、“代わりに戦うこと”ではなく、“安全基地として見守ること”。
ときには「放っておく」くらいの距離感の方が、子どもは自分から動きやすくなります。
逆に、親が毎日勉強量を管理したり、過干渉になったりすると、子どもは「自分で決める力」を失ってしまい、合格しても燃え尽きたり、失敗したときに立ち直れなくなったりすることがあります。
大切なのは、「あなたなら大丈夫」「失敗してもやり直せるよ」と伝えること。結果がどうであれ、自分を信じてくれる人がいるという安心感は、受験期の子どもにとって何よりの支えになります。
おわりに:信じて、任せて、寄り添うという愛
受験期は、親にとっても試練のときです。自分が頑張るわけではないのに、心が揺さぶられ、焦りや不安に襲われる。だからこそ、「信じて、任せて、寄り添う」という姿勢が、何よりも大切です。
「頑張ってるのは本人」
「親は“見守る力”を試されている」
そう自分に言い聞かせることで、冷静に子どもと向き合えるようになります。子どもは、親のまなざしの中に“安心”を感じたとき、本当の意味で自分の力を発揮できるのです。
親子の関係は、点数や合格通知よりも、ずっと長く続いていくものです。
だからこそ、受験が終わったあとに「この時期、あの言葉が嬉しかったな」と子どもに思ってもらえるような、あたたかい関係を築いていけたら――それが何よりの“合格”ではないでしょうか。